コラム

コラム:ランドセルと父親への想い

この度ランドセル130周年に対してコラム執筆を拝命したが、私はランドセル業界に入って5年しか経っておらず、正直、何を書けばいいのか困っている。他界した父親である先代社長が生きていれば、本来彼が筆を取るべきである。期待に添うかどうかいささか不安だが、私のランドセルとともに育った環境と、ランドセルに対する想いについて記憶を頼りに書いてみたい。

私は1974年に弊社本社工場(現:室津工場)に生まれた。当時の記憶はないが、当時は社員の方々によく遊んでもらっていたりしたらしい。社員の方々が家族同然という幼少期を約5年過ごしたが、5歳のときに設立したばかりの大阪営業所に引っ越すことになった。
大阪営業所には出張社員や、大阪でお世話になっていた問屋さん達で賑わっていたように記憶している。
私も小学生になってやんちゃざかり、よくランドセル倉庫に友達と忍び込んで、高く積まれた段ボールに登り、基地ごっこをしたのを覚えている。今思うと商品の入った段ボールに登るなんて本当にお客様に申し訳ないと反省している。
私のランドセルはごく普通、もちろん黒だった。4年生くらいでランドセル生地がボロボロになり、友達も何名か格好良いスポーツパックに変わっていたので、私もそうしたかったが、両親は許してくれなかった。
結局6年間ボロボロのランドセルを使い続けた。使い終わったランドセルは父親がすぐ工場に持って行った。おそらく耐久性などの研究材料に使ってくれたのであろう。

父親は月曜こそ大阪営業所勤務だが、その夜から本社工場に移動し、土曜日のタ方になるまで単身赴任で帰ってこなかった。日曜はひたすらリビングでテレビを占領する。
私は反抗期もあって、たまに家にいる父親の存在がうっとうしかった。また休日遊びに行きたいのに、よく無理矢理出荷を手伝わされた。
私は「こんな公私混同な会社に入ってたまるか。絶対に良い会社に就職して、この環境から抜け出してやる」と強く思うようになった。
いざ就職活動の時は氷河期だったが、就職できずに父親から仕方なくセイバンに入れてやると言われるのは、絶対にプライドが許さないと必死に就職活動し、なんとか第一志望のサントリーに入社することができた。
いよいよ就職して家を出る年に、家族で初めて旅行に行った。信じてもらえないかもしれないが、私が就職するまでの24年間、一度も家族全員で旅行をしたことがなかった。
今思うと父親は質素倹約で一生懸命ランドセルに打ち込んでいたと思うが、 当時はランドセルで家族を犠牲にした酷い父親であり、ランドセルに対して悪いイメージしかなかった。

2002年に結婚したとき、初めて父親を継ぐ気があるかどうか母親から聞かれた。私は「継ぐわけがない」と一蹴したが、母親曰く、父親はセイバンおよびお世話になっている関係者の皆様に、私のお披露目をしたかったようだ。断固拒否したが、今思えばもう少し大人になって父親の想いを汲み取ってやれればと感じる。 結婚してからは、セイバンの仕事やランドセル業界にも少しずつ興味を持つようになった。
2003年に弊社の画期的技術「天使のはね」が生まれたが、偶然にも同年私の長女も生まれた。その頃から、自身が父親という立場になったこともあり、自分の父親の見方、会社の見方も変わってきた。当時ランドセルはカラー展開が増え、刺繍なども加わるようになった。自分が背負っていた時のランドセルからものすごく進化しており、ランドセルって面白いと感じるようになった。
2006年から初めて関東に住むことになり、東京の大学のビジネススクールに通いながら働いた。最初は自身のキャリアアップのためだったが、勉強していくうちに経営について興味が湧くようになり、経営者である父親を強く意識するようになった。またその頃父親が腫癌を患っていることが判明し、当時セイバン取締役だった親族達から、次期社長を継いでほしいと懇願された。
決心するのに4年かかったが、2010年10月に弊社に入社した。その時はA4クリアファイルサイズのランドセルが爆発的にヒットし、先代社長は非常に焦っていた。対応に東奔西走した挙げ句、翌2011年1月に出張先で他界した。ゆえに業界のことや経営のことなどは全く父親から引き継いでいない。
唯一引き継いだのは、社葬の際に先代社長を悼むビデオに映っていた、先代社長のテレビインタビューでの一言だけである。
「ランドセルは小学生のお子様に、6年間大事に使い続けてもらわなければならない。それがランドセルの使命である」。
現在私が、「ランドセルとは何か」と質間されたら、迷わず先代社長の言葉を借りるだろう。

我が社は先代経営者が創った社是をもとに、 「愛情のものづくり」という経営理念を掲げている。
我が社は先人の方々が築き上げてきたランドセル文化を、真撃に大切に捉えながら、今後も愛情の象徴として、誠心誠意を込めたランドセルづくりに適進していく所存である。

株式会社セイバン 代表取締役 泉 貴章

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